君は世界を旅してる

「……何に謝ってんのか知らないけど」

呆れたような声色が聞こえてきて、怖くなって下を向いた。
怒ってるかもしれない。私の自分勝手な感情に振り回されて、一条くんはうんざりしてるかもしれない。

「絶対許さない」

ハッキリとそう言われて、戸惑った。

「あ、あの」

「アンタが、」

一条くんのまっすぐな視線が私に突き刺さる。
真剣な顔から、目が離せなくなる。

「広野真子が、ちゃんと自分の目で最後まで、真実を確かめるまでは。絶対に許さない」

「い、一条くん……」

責められてる、そう思った。
お母さんのこと、最後まで辿り着く前に、怖くなって逃げ出した私を怒ってる。

「アンタ言ってたよな。最初、俺に協力してくれって頼んできたとき。母さんとは仲良かったって。2人で幸せに暮らしてきたって」

「!」

一条くんが、顔を歪めた。
辛そうに見える。
どうして一条くんがそんな顔するの。

目の前の一条くんが、滲んだ。

「それなのにアンタは、ずっと自分が邪魔だと思われてたってのか。自分を幸せに育ててくれた親の行為全部、嘘だったと思うのか」

一条くんの表情もよくわからないほど、視界がぼやけてくる。
心細くなって、地面に置いた手を握る。
それに気付いた一条くんが、手を重ね合わせてくれた。

「俺は最後まで知るべきだと思う。今は辛いかもしれないけど、今途中で投げ出したらいつか絶対後悔するときがくる」

ひとつひとつ、私に訴えかけるような一条くんの言葉。
その全部が私の中に入り込んできて、固く閉じた扉をこじ開けてくる。

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