火恋 ~ひれん~
 昨夜は眠ろうと思っても頭の片隅が冴えてしまって・・・微睡を繰り返し、気が付いたら朝を迎えていた。
 遮光カーテンの隙間から差し込む光線が晴天を告げる。
 ぼんやりと今日一日を思う。
 午前中に掃除、洗濯、・・・お布団干して。午後から買い物と・・・公園でウォーキングでもしようかしら。部屋に籠もっていてもきっと余計に考え込んでしまうから。
 せめて出勤だったら気も紛れたのに。

 自分の体温でぬくもった羽毛布団に包まり幾度か寝返りを打った後。勢いをつけて起き上がる。
 レースカーテンだけになった室内に光りがサッと広がり、冷ややかな空気が暖かみを帯びた。
 目を落とすと、ベッド脇のチェストの上に吸殻を包んだあのタオルハンカチ。それを手に取り愛おしむように頬にあてる。・・・そうせずにいられない自分が居た。
 それから引き出しの奥に仕舞い込む。 
 棄ててしまえば楽になるのに。わたしがわたしに囁いた。
 こんなもの、意味が無い。

 わかっているわ。分かって・・・いるのよ。 





 半日がかりで家の事を済ませ、お昼は玉子雑炊を作って食べた。残り物の一掃処分も兼ねて。
 お腹を満たした後、ノートパソコンのメールチェックなんかを終える。
 今日は風もそれほど強くなくて出かけやすいお天気だから。午後は公園を散歩がてら食料品の買い出しに。

 薄くお化粧をして、タートルネックセーターとロングスカートに着替える。ダッフルコートを羽織りバッグを斜め掛けにして部屋を出た。
 鍵をかける時。
 無意識に視線が足許を泳いだ。あのひとの吸い殻が。また落ちてはいないか・・・と。




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