火恋 ~ひれん~
 自分の部屋から取って戻ったそれを、おずおずと渉さんに差し出す。

「色々と迷ってしまって、普段から使うものって言ったらやっぱり・・・」

 細長いショップバッグ。平べったい長方形の箱の中身は。光沢のあるミントグリーンに少しクリームを混ぜ込んだような色で、光に反射すると銀糸の千鳥格子柄が浮かび上がるネクタイ。
 渉さんが安物を身に着けないのは知っているけれど、高級ブランド品は手が届かないし、百貨店を回って精一杯のものを探したつもりだ。

 上箱を開けた時。彼は一瞬、目を見張った。何故か驚いたようだった。もしかして色が気に入らなかったのかと、気持ちが急転直下する。
 それに気付いたのか、渉さんはわたしの頬に触れて自分に向かせた。

「ああ、・・・いや。お前はどうして」

 少し困ったような・・・どこか遠いような静かな眼差しで。

「・・・どうしてこの色だと思った」

 わたしは正直に思ったままを答える。

「渉さんは濃い色も素敵なんですけど。わたしの中のイメージって春の草原とか、緑の木陰みたいな・・・パステルグリーンなんです。空とか海もちょっと違うんです」

「・・・・・・そうか」

 言った時の渉さんの儚げな笑みを、わたしは死ぬまで忘れられないと思う。
 次に零れた彼の言葉と共に。

「昔、似たような事を云って、同じ色のネクタイを俺に贈った女が居た」

 初めて。
 彼は自分の話をしてくれていた。
 それなのに、心が凍り付いて。冷たく麻痺してく。
 聴きたくないのに。
 耳の一番奥にこびりついて離れない。



「・・・死んだ俺の連れ合いだ」
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