青藍のかけら
薄桃色の花びらも散り、もう葉桜が目立つ。

ぽかぽかの日差しが気持ち良くて、大学近くの喫茶店のテラス席でお茶をするのが最近のお気に入りの時間だ。

「別れたぁ!?」
「うん、昨日」

右手に持つカップから立ち昇るコーヒーの湯気の向こうから由美(ユミ)の素っ頓狂な声が聞こえた。
長い髪をきれいに巻いているゴージャス美人が目を真ん丸くしている様はなかなかおもしろい、などとこんな時にぼんやりと考える。

「‥‥なんで急に?」
「‥‥さぁ?」

じいっとこちらを見つめる美人な親友の目線からさりげなく目を逸らす。

「千鶴(チヅル)?」

由美が静かに私を呼ぶ。
観念してゆっくりと目線を戻すと真剣な目が私を捕らえる。
私は小さく溜め息を吐いた。
どうせ、私はこの付き合いの長い親友には隠し事などできはしないのだ。

「‥‥俺のこと、好き?って聞かれたの」
「うん」
「それだけ」
「‥‥‥」

流れた沈黙が気まずくて私はコーヒーを一口だけ口に含む。
もう、由美も呆れているだろう。私がいつまでも恋愛に関して淡白でいい加減だから。

――由美に友達やめられたらどうしよう。
派手な外見に反して、由美はずっと今の彼氏一筋だから。
私にとって、いつダメになるかわからない彼氏なんかより、信頼できる友達の方がずっと大切だ。

口いっぱいに広がったブラックコーヒーの苦味まで、榊千鶴(サカキ チヅル)という人間を責めているように感じる。
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