青藍のかけら

「で、千鶴はなんて言ったの?」
「へ?」

‥誰に?

「彼氏に」
「ああ、わかんないって」
「‥‥はぁ‥」

あ、とうとう溜め息つかれちゃった。

「それで、どうして別れるのよ?」
「私が、別れよ、って言ったから」

できるだけ、なんでもないことのように言う。
だって、私はなんともない。
どこまでも、私は最低な人間だから。

「‥まだ、好きなの?」
「‥‥なにが」

とっさにごまかそうとしても、由美は私の手がピクリと反応したのを見逃さず、二度目のため息をついた。
沈黙が肯定を表してしまうことがわかっていても、瞼を伏せたまま、私は由美の目をみることができない。

「伝えられれば、いいのにね」

長い沈黙のあと、由美はぽつりと呟いた。

「‥‥や」

幼い子どもが駄々をこねるように私はふるふると首を振る。

それは、できない。

それは、私のちっぽけなプライドのためなんかじゃなくて。
ううん、確かにそれもあるのかもしれない。
けれど、たぶん、そんなものよりもっともっと、私にとって大切なものを、守りたくて仕方がないのだ。
きっと手のひらに載ってしまうくらいにちいさくて、くだらなくて、でも。

大切な、大切なもの。

「そう‥‥しょうがないね」

困ったように微笑んで、カチャ、と持っていたカップを静かに下ろす。
ゆっくりと腕を伸ばして、俯いたまま唇をぎゅっと噛む私の頭をそっと撫でる。

「大好きよ、千鶴」

だから、泣かないで。

優しい手はそう言ってくれているようで。
私は零れそうな涙をこらえながら、小さく微笑んだ。

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