リアルな恋は落ち着かない
「『コウノスケ』って言えるんだから。柊吾だって呼べるだろ」

「!」

聞き慣れない、意地悪にだって聞こえる言葉。

だけど優しく甘い口調なら、逆らえないって思ってしまう。

「柊、吾・・・」

頑張って、なんとか口にできたけど、やっぱり少し恥ずかしかった。

そんな気持ちをごまかしたくて、目の前にあったストローで、コーヒーグラスの中をぐるぐるかき回していると。

「あ・・・っ!」

勢いよく回しすぎ、氷がひとつ、グラスの中から飛び出した。

そしてそのまま、テーブルの上をスーッときれいに滑ってく。


(あ!落ちる・・・!)


咄嗟に席を立ち上がり、慌ててそれをキャッチする。

セーフ、と思ってほっとすると、五十嵐くんは「ぶっ」と大きく吹き出した。

「・・・なんですか今の」

「え?」

「マンガかコント」

「えっ!?」

「いや・・・」

笑いながら、彼は私の手から冷たい氷を取り出した。

そして自分のカップにそれを入れると、私の濡れた手のひらを、紙ナプキンで拭ってくれた。

「・・・やっぱり、優里菜はおもしろい」




彼は私を、「おもしろい」っていつも言う。

そのたび私は怒ったけれど、もう二度と、怒れなくなってしまった。

だって彼はその意味を、私に教えてくれたから。

そしてそう言う時の彼は、とても甘い顔をするから。


ーーーー微かな事に、心が揺れる。

現実の恋は、停止不能で二次元よりも難しい。

けれど触れて感じる温もりは、こんなに甘く幸せだって、私は気づいたのだった。





☆   ☆   ☆   END   ☆   ☆   ☆





お読みいただき、本当にありがとうございました!!








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