リアルな恋は落ち着かない
思わずにんまりしていると、彼も嬉しそうな顔をした。

「・・・ああ、そうだ」
 
コーヒーを飲み干した後、思い出したように彼が呟く。

私が目線を合わせると、少し甘い表情で言う。

「名前。優里菜って呼んでいいですか」

「えっ」


(ゆ、優里菜・・・)


突然の申し出だった。

驚いて、私は思わず息をのむ。

彼が初めて「優里菜」と言った。

もちろん、このままずっと「橘内さん」じゃ寂しいけれど、実際名前を呼ばれると、予想以上にドキドキとした。

「あ、えっと・・・」

「いやなら、『ゆりりん』でもいいですよ」


(!?)


五十嵐くんが「ゆりりん」は、いろんな意味で阻止したい。

「それはちょっと」と焦って言うと、「冗談です」と笑われた。

「なら、オレは優里菜でいい?」

「・・・うん」

「じゃあ・・・・・・優里菜」

愛おしそうに、彼が名前を呼んでくれた。

これ以上ないくらい、耳に甘い音が響く。

それだけで胸がいっぱいになり、私の名前は、この一瞬で特別なものになった気がした。

「・・・ああ、オレも呼び捨てでいいですよ。柊吾でも、柊でも」
 
「しゅ・・・」


(よ、呼べるかな・・・)


思った以上に、このハードルは高かった。

口にしようとした途端、声が小さく消えていく。

そのまま口を閉じた私に、彼はふっと微笑んだ。
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