苦手な言葉レンタルします!
週末午後9時の駅前居酒屋はそこそこの賑わいだ。
「――で先輩、山口佳代を何時になったら口説くんですか?」
滝口は酔った勢いで、3年先輩の川崎をちょっとバカにするような口調で云った。
「わかってないなぁ~、女を口説くのはタイミングが大事なんだよ。タイミング!」
川崎はもっともらしく云い返すものの、今までの27年間の人生でそのタイミングというヤツを的確に掴んだ事は一度もなかった。いや正確に云えば、そのタイミングを掴んだ事はあったかもしれない、しかしその時口説き文句を口に出来たことが無かったのである。

川崎三郎と滝口雄太は某プリンターメーカー支社の営業担当の社員である。
山口佳代は二人が担当している食品会社のOLで、川崎が目をつけているNO2だ。
本命は同じ食品会社のOLの谷口ミキなのだが、谷口は誰もが狙っている高嶺の花で、とても今の川崎には1000%無理なことは、本人にもよーくわかっている。

「ねぇ先輩、山口佳代はおそらく先輩に気がありますよ!」
「そのくらい俺だって気づいているよ、でもなほらあの会社は大事な顧客だしなぁ。下手なことをして、問題になってもな・・・」
二人の会話は「口説け」「今はダメだ」の堂々巡りで、いつものパターンが今夜も終電まで繰り返された。
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