迷走女に激辛プロポーズ
どういう意味、と思ったのは一瞬だった。容赦無い二人の追及を交わすのに精一杯で、他のことは考えられなかった。

「私、これから緊急の課会議なの」

それでもキッチリ食事を済ませると、清香がまず席を立つ。

「会議室はこの下。だから階段で行くわ。あっ、そうだ、牛子の写真送ってね。待っているわ」

スマホを目の前で振り、清香は絶対よ、と例のメドゥーサの目で見る。一瞬で固まる私。

『やっぱりなぁ』と頭の片隅で、ちゃぶ台を前にお茶を啜る私が呟く。時々聞こえる私の声だ。

『いくら見解を新たにしても、このお方の目には逆らえない! だから油断禁物って言ってるのに』とちゃぶ台の私が私に言う。ごもっともでございます。

「清香様、何やってるんですか、会議に遅れますよ!」

それにしても……と遥香を見る。
どうして、この娘にはメドゥーサの術が効かないのだろう?
もしかしたら、この娘が誰よりも最強なのか、と思っていると……。

「じゃあ、待っているわ、しゃ・し・ん」と匂い立つ毒花のような美笑を浮かべ、清香は非常階段に消える。

思わず清香の消えた方に向かって、負け犬の遠吠えのように、絶対送りません! と心の中で叫ぶ。

「それじゃあ、私たちも参りましょうか。本当はもっとゆっくりしたいのですが、総務部もこれから、ミニ会議という名のミニ茶会なのです。急がせるみたいで、すみません」

ミニ茶会? 総務部は何をやっているのだ?
でも、その茶会とやら、一度覗いてみたいかも、と好奇心に駆られる。
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