あなたとホワイトウェディングを夢みて

「郁未と何があったか知らないが、郁未はいい加減な男じゃないよ」

 郁未の親友ならば今回の賭けは聞かされているはず。それどころか、聡と郁未が共謀している可能性も考えられる。
 だが、留美にも郁未が適当な男ではないと信じたい。あの(・・)時の、あの(・・)会話はなんらかの事情の為だと。
 だから、聡の言葉に頷いた。

「郁未を任せていいかな?」
「はい」

 留美の顔に微かだが笑みが浮かぶ。それを見て安堵した聡は微笑み返すと部屋を出て行った。
 聡に返事したものの、マンションに郁未と二人だけになると、やはりあの時の郁未の声が頭に木霊して胸が重苦しい。
 一先ず、玄関に鍵を掛けた留美は、郁未が眠る寝室へと戻って行く。マンションなのに広い廊下でアパートの建て付けとは段違い、壁紙一つ取っても高級感が溢れている。
 寝室を閉ざす漆黒の木製ドア、王侯貴族を迎えるドアのようで、ドアに触れるのでさえ気後れしてしまいそうだ。
 マンションの駐車場には破格な値段の高級車がズラリと並んでいた。庶民レベルの自分が住む世界と違う。そんな世界の住人が庶民を相手にするなど考えられない。

「罪な人ね……」

 ベッドに横たわるスーツ姿の郁未。
 せめて上着だけでも脱がしてやろうと、ベッドに腰掛け郁未の上着の前ボタンを外す。寝苦しそうにする郁未のネクタイを外そうと前のめりになると、留美の重みでベッドがミシッと軋む。
 ベッドのマットレスが揺らぐと腰を上げてベッドに膝を突く。

「こんな格好は人には見せられないわね」

 眉を歪めながら、急いで郁未のネクタイを緩めてはシャツから抜き取り、呼吸が楽にできるように襟元のボタンを上から順に三つ外す。

「少しは寝苦しさが取れたかしら?」

 ネクタイは外したものの、上着は前ボタンを外しただけ。これでは休まらないだろうと、郁未の身体を横に傾けながら腕から上着を引き抜いていく。

「重いわね。専務、目が覚めないのかしら? でも、この状況で起きられても困るし……」

 か弱い女の力を振り絞って、なんとか上着を郁未から脱がした。

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