あなたとホワイトウェディングを夢みて

「留美ちゃん、乗せるよ。いいね?」
「はい」

 留美に声をかけてから力任せに郁未を抱き抱え車椅子へと移した。
 郁未の重みで車椅子が揺らぐが、留美は車椅子が動かないように必死にグリップを掴んで支える。

「ありがとう。助かったよ。俺一人じゃ運べなかったよ」
「いえ……あ、その……」

 背を丸くして眠る郁未の後ろ姿を切なそうに眺める留美。何故こんな時間から泥酔しているのか、初めて見る郁未の姿に理由を知りたくなる。しかし、訊く勇気が出ない留美は口を噤み、ブレーキのレバーを戻し車椅子を押して行く。
 無言のままの留美を横目に、聡もまた口を開くことなく部屋まで一緒に行く。エレベーターでは留美の手を煩わせないように扉を開けてやっては、若干の段差に躓かないように留美の隣で常にフォローする。
 眠った郁未が椅子から転げ落ちないように、聡は車椅子にぴったり付いて歩いて行くが、留美の動作がとても丁寧で心配など必要なかった。
 留美の手助けと車椅子のおかげで無事に郁未を部屋まで連れて帰ることが出来た。バリアフリー仕様のマンションだ、寝室まで簡単に車椅子で運べたし、ベッドへ移すのも難なく終えた。
 郁未を寝かせるとやっと自分の責任を果たしたと、聡は車椅子を押して玄関から出て行こうとする。
 すると、聡の後を追って寝室から飛び出した留美は、寝室のドアを閉めるのも忘れ玄関へと行く。
 そんな留美の前に立ちはだかり、聡が留美の行く手を阻む。

「どこへ行くつもり?」
「私も帰ります」

 玄関に脱いだ自分の靴を見る留美は、今すぐにもここから去りたいオーラが出まくっている。その尋常ではない様子に聡はピンと閃く。

「誰かが監視していなきゃ、あの酔っ払い何するか判らないよ?」
「でも、私は……」

 口籠もる留美は俯くと左手で顔を覆う。
 一瞬、留美が涙を流しているのかと、聡は留美の顔を覗き込むが、留美はただ困惑した顔で肩を震わせていた。

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