あなたとホワイトウェディングを夢みて
(まさか賭けを知られた? いや、そんなはずはない。留美は……)

 敵対していた頃の留美の瞳が郁未を襲う。
 驚きおののいた郁未は留美から離れベッドから降りた。そして、留美にどう説明すればよいのか背を向ける。
 そっぽを向かれた留美は、まるで郁未に拒絶されたようで、身体を起こすとベッドから下りて行った。

「すっかり騙されたわ」

 郁未に抱きしめられる温もりも、甘いキスも、優しく見つめられる瞳もすべてを信じたくて、最後の望みをかけて郁未から送られた婚約指輪をネックレスに通して肌身離さず持っていた。
 両手を後頭部へ回しネックレスを外すと、指輪を手の平に乗せ握りしめる。

「政略結婚を破談にする為に人を傷つけてもいいの? 恋愛経験がない女なら何しても許されるの?」
「……」

 留美の怒りの言葉に郁未は反論できず、指先が手の平に食い込みそうになるほどに強く拳を握る。

「いや、俺は……そんなつもりは」

 郁未は言葉が出てこず、右手で顔を覆う。

「認めるのね、自分の政略結婚を破断にする為の賭けだったって」
「違っ……、俺は本気だったんだ」

 留美にすべてを知られていた。
 最初は賭けから始まった誘惑だったが、展開は予想外の方向へと進んでいった。今の自分の気持ちを伝えたいと思ったが、顔を上げた郁未が見たものは、まるで死海のような深い暗闇が宿る留美の瞳だった。

「もう十分でしょう? 恋愛ごっこは終わりよ」

 郁未から貰った婚約指輪を、ネックレスごと床に捨てて留美は寝室から出て行く。
 郁未の目には床に落ちても煌めく指輪の光が留美の笑顔と重なる。郁未にはかけがえのない宝物だ。

「留美!」

 床から指輪を拾い留美の後を追いかけるが、留美は郁未を見ようともせずに靴を履く。

「留美、聞いてくれくれ。確かに俺は父親に見知らぬ女との結婚を決められ、それから逃れたくて賭けに応じた。でもそれと留美とのことは違う」

 必死になる郁未だが、焦れば焦るほどに墓穴を掘ってしまう。

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