あなたとホワイトウェディングを夢みて
思わず信じそうになった、郁未の愛の言葉。
しかし、フッと笑った郁未の口元が緩むと、あの非情なセリフが再び木霊する。
『約束通り彼女に指輪を贈りプロポーズし、そして彼女はそれを受け取った』
『見事、誘惑に成功したと言う訳か』
『約束通りこれで例の縁談話はご破算ってことですよね?』
『賭けはお前の勝ちだ』
郁未の囁く愛の言葉、二人一緒に選んだ指輪。真っ白な雪が降り注ぐホワイトウェディング。
何もかもが偽りだと知り、心は砕け奈落の底に突き落とされた。
甘いキスは無垢な女を落とす手段に過ぎない。胸が高鳴る言葉も、熱く握りしめられる指もすべてが偽りだった。
『俺の嫁は俺が決めます』
煌めく指輪も、愛の言葉も蕩ける口づけも、すべてが郁未の心を占領する女性の為にある。
なのに、何故――
「こんなことができるの?」
「え?」
留美の震える声に顔を上げる。
留美の潤む瞳が郁未の目に飛び込む。
「留美?」
軽蔑すべき行為なのに、愛しいキスを与えてくれる郁未を信じたくて心が乱れる。
「留美、ごめん。痛かった? やっと会えて嬉しくて力が入ってしまったんだ。ごめんな、痛くして」
絡み合っていた指が離れ、熱を帯びた指先が留美の頬に触れる。これ以上郁未の熱を感じ取れば、たとえ利用されていようとも留美は抗える術はない。
その手に完全に落ちてしまえば、留美は這い上がることができない程に郁未に溺れ、恋しくて泣き続ける夜を迎える。
「面白かった?」
「え?」
唇をギュッと噛み締めると、留美は、頬に触れる郁未の指先を払い除ける。
「留美?」
これ以上、郁未に惑わされるつもりはない。相手に伝わるように意思表示しなければと、留美は心を閉ざし郁未を睨みつけた。
「お固くて恋愛経験のない私で楽しめたのかしら?」
「何言ってる、留美?」
「茶番劇の総仕上げとして、今が一番効果的に捨てられるわよ」
心を通い合わせる前の留美の表情が甦り、棘のある言葉が郁未の心を貫く。