狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
「朝まで居ていいらしいから。
……今夜はゆっくり眠るといい」

声の主は、ベッドから下がった私の左手を大きな温かい掌にそっと包んだ。

チッ…チッ…
点滴の速度を調節する機械音。

そのリズムに合わせて彼が手の甲を擦る。その動きが、私を再び眠りに誘(いざな)う。

微睡みの中で、機械の音が止まると、手がそっと離された。

ああ…大神さん、帰っちゃうんだな…


私、またもやダメダメだ…
お礼すらまともに言えなかった。

“今夜は楽しかったです、ありがとうございました”って。


すると夢の中で、思いに呼応するようにもう一度柔らかなテノールが響いた。
 
「俺も……楽しかったよ、ありがとう」
 
そして……





唇に柔らかい弾力が触れた。

シットリと濡れた擽ったさと、微かに染みるワインの甘み。

頭の中に疑問符が浮かぶ。
 
あれ、なんだっけ。

前にも一度この感触……味わったことあるよ……ね……


私は再び、深い眠りに落ちてゆく…
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