狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
「カレシ、欲しいんだったよな?」

彼が落ちてきた私の後れ毛を耳にかけた時、耳朶に右手が触れた。
途端、ビクッと身体は敏感に反応し、私は再びギュッと目を瞑った。

「そこっ…駄目です」
「え、ここ?」

彼は分からないふりをして、耳朶を軽く食む。
「ひゃっ…」

自分じゃないみたいな私の変な叫びに、彼は満足げに、甘いテノールを響かせた。

「そう、色気は…経験。業務外指導、受けてみる?」
 
身体が痺れる。 

ああ、そうか。
『気を付けなさい』…水野さんが言ってたのは、これだ。
 
小動物的な私の本能も
『危険デス、お逃げなサイ』
と警鐘を鳴らしている。

解っている。
解っているのに、どうしようもなく止まらない。

理性はあっさり押し負けた。


「ホテル、戻るか?」
勝ち誇った彼の囁きに、私は小さく頷いた。

「ん……」
< 32 / 269 >

この作品をシェア

pagetop