狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
「ど、どうしたんだ?赤野サン」
 
さすがに手を止めた彼の顔面に、仄赤い飛沫が飛び散った。

驚いて私の上から一歩退いた彼。
顔をフキフキしながら、のっぴきならない私の様子を恐る恐る覗き込む。

「だ…いじょうぶ?」

鼻と口を両手で懸命に塞ぎながら、私は彼に頼み込んだ。

「スイマセン。
テイッシュ…
…く、口からハナヂが……」

「…………ア~」
彼はスッカリ呆れ顔で、枕元のティッシュケースを渡してくれた。

これは……
キャパを越えた心と身体の自己防御なのか、それとも単に興奮しすぎただけなのか。

次々と与えられるアダルトな刺激に耐えきれなかった私は

とうとう肝心なシーンで

流血した。


「あう……」
「…………」


その後、どことなく白けた顔をしながらも、『アイスノン』と『冷えピタ』を買い、きっちり介抱してくれた彼は、やっぱりいい人なのかも知れない。


「じゃ、オヤスミ。明日は7時な」
手を振って隣の『304』号室に去っていった彼。

「…スミマセン…」
私はその背に弱々しく手を振った。
(後で思えば、謝る必要は全くない!)

その時の私は、情けないような申し訳ないような残念なようなホッとしたような、色々な感情がごちゃまぜで……
 
アイスノンを抱いて眠る胸中はフクザツなものがあったが。

こうして、 
ともかくも私はこの夜、テイソーの危機を免れた。

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