イケメン伯爵の契約結婚事情
「あなたにも何も渡さないわ。私はカマスとともに死ぬ。生き延びて生き恥をさらすのは沢山よ。あなたはどこにでも行けばいい」
「カテリーナ」
「ずっと、私じゃなく、あの人と暮らしたかったんでしょう。とっとと行けばいいわ。すべての罪は私が背負ってあげる。フリード様、毒を栽培したのは私よ。養蜂家に頼み、毒花からの蜜を取るように指示したのもみんな私。だから、彼は何もっ……ごほっ」
せき込んだカテリーナがよろめいたとき、彼女の手袋に引火した。
「きゃああっ」
油をまいたときにしみたのか、手袋はあっという間に燃え盛る。
「カテリーナ!」
アルベルトは、燃え盛る火の中に飛び込んだ。
暴れるカテリーナの腕をつかみ、必死に自分の上着をたたきつけて消そうとする。
エグモントは、腰が抜けたのか四つん這いになってはい出てくる。
「とにかく出ましょう、ここは危険すぎる」
トマスとディルクに促され、フリードとエミーリアも頷いた。「叔父上」と声をかけるも、ふたりは動かない。
いつまでも動けずにいるエミーリアを抱き上げ、フリードは表に出た。続いてエグモントが四つん這いのまま出てきたが、アルベルトとカテリーナは一向に姿をあらわさない。
「叔父上っ」
呼びかけにも応答はない。やがて、奥の窓から飛んだ火の粉が、積みわらに引火した。
あっという間に畑に燃え広がるのを、フリードたちはどうすることもできなかった。