イケメン伯爵の契約結婚事情
実際は……と、トマスは頭を抱えて目の前の主を眺める。
容姿は美しい。まさに噂通りと言えるだろう。
小さな顔にすっと通った鼻、薄紅色に染まった血色の良い頬は健康的で愛らしい。
目元にある泣きぼくろが特徴的で、少し視線を上に向け薄茶の瞳と目を合わせれば、まるで吸い込まれるような気分になるだろう。一つにまとめられている長い栗毛の髪が下ろされているときは、今以上に人の目を惹きつける。
しかしながらこの麗しい令嬢は、内面において全く噂通りではない。
子供の頃からお転婆な彼女は、三歳上の兄であるギュンターの後をついて回り、学業や乗馬の訓練に精を出し、弓を自由自在に操っていた。
趣味は狩り、好きなものは馬。
汚れることも厭わず厩に入り愛馬の毛並みを整える彼女を、トマスは何度連れ戻したか分からない。
当主であるベルンシュタイン伯爵はそんな彼女を溺愛していた。
そのため、伯爵は喜ぶ娘の顔が見たくて、乗馬も狩りも彼女の望むとおりにやらせた。
奥方の小言などは聞き流していたのだろう。
伯爵はどこかで思っていたのだ。
女性としての礼節は、年頃となれば勝手に身についていくものだと。
それが、間違いだったと気づいたのは、エミーリアが十五歳の誕生日を迎え、彼女を社交界デビューさせた晩餐会の時だ。