イケメン伯爵の契約結婚事情
エミーリアは一冊興味のひかれた本を取り出した。赤地のしっかりした装丁の本には、手あかがついている。パラパラとめくれば、エミーリアの知らない花が丁寧に図解されていた。
フリードが横から覗き込み、意外そうな声を上げた。


「『花の種類と効能』か。意外なものを選んだな。てっきり女子供の好きな恋愛小説でも選ぶかと思った」

「そういう本はあまり興味がないの。せっかくだから知らないことを学ぼうと思って」


特に花については、ここにきて初めて知ったことが多い。どんな種類があるのか、せめて飾られている花がどんな名前をしているのかくらいは調べたかった。


「ここ、自由に出入りしてもいいのかしら」

「そうだな。ただ、一人では入らないようにしてくれ。俺がいなければ、ディルクかトマスを連れて入るんだ。扉を閉めると本に音を吸収されるからな。ここで何か起こっても人が気づきにくい」

「分かったわ」

「ただ、あまり長居しないようにしろよ。変な噂が立ってるからな」

「変な噂って?」

「トマスのことさ。お前の愛人ではないのか、とな」


エミーリアは目をぱちくりとさせた。
実家では、エミーリアが何かしでかすとトマスが後処理をしていたことから、彼が傍にいないと『何をやらかした』と言われるくらいだったので、その発想はなかった。


「どうして?」

「深窓の令嬢が、わざわざ従者を連れてきたんだ。いぶかしく思うのは当然だろ。あの馬がお前のモノだと思うやつはこの領土には誰もいないよ」


言われてみれば納得だ。深窓の令嬢が馬に乗るなどと誰も思うわけがない。侍女ならともかく、男の従者を連れてくれば、疑問に思われるのは当然だ。
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