もう一度君に会えたなら
「どうして? それだけ成績がいいなら、いい大学も狙えるでしょう」
「金銭的な問題で大学は諦めているって言っていた。今も生活費のためにバイトをしているの」

「そう。彼がまじめな人なら反対はしたくないけど」

 お母さんは顔を歪ませた。

「ダメなの?」

「お父さんがどういう仕事をしているの?」
「分からない」

「どんな家に住んでいるの?」
「知らない」

「名前は?」
「教えたら調べるの?」

 わたしはお母さんをじっと見据えた。まるで調査をされているみたいだ。

「あなたのためよ。変な人と付き合ったら、あなたのためにならない」
「変な人なんかじゃない。わたしはあの人が好きなの」
「唯香、あなた」

 お母さんの荒げた声が電話の着信音にかき消された。
 お母さんは電話を取ると、言葉を交わしていた。
 電話を切ると、短くため息を吐いた。

「今から会社を出るらしいから、わたしたちも出ましょうか。話は車の中で聞くわ」
「行かない。お母さんは反対する気なんでしょう」
「行かないなら、その理由をお父さんに言わないといけないわよ」
< 105 / 177 >

この作品をシェア

pagetop