もう一度君に会えたなら
「二百二十八円になります」

 わたしは財布を慌てて鞄から取り出した。小銭を出そうとしたが、手が震えてうまくつかめなかった。なんとか五百円を取り出し、小銭を青いケースの中に入れた。

 彼は慣れた手つきで会計をすませ、商品を袋に入れわたしに渡した。
 続いてお釣りを渡す。

「唯香? 後ろ、後ろ」

 いつの間にかビニール袋を手にした榮子がわたしに耳打ちした。後ろには怪訝そうな表情でわたしを見たお客さんがこちらを見つめていた。

 わたしは顔が赤くなるのを自覚し、その場を離れた。
 店の外に出ると一息ついた。

「どうしたの? 唯香らしくない」

 榮子は気づいていないのだろう。店員が昨日のあの人だったということに。
 わたしは高鳴る鼓動を抑えるために拳を握り胸を軽く小突いた。

 そして、「なんでもない」と言葉を紡ぎ出した。

「ならいいけど」

 榮子は買ったばかりのチョコレートの封をあけ、口の中に放り込んだ。

「唯香は食べないの?」
「今はいいかな」

 わたしはあいまいに微笑んだ。
 本当は飴玉くらいならと思ったが、どうしてもそんな気分にならなかったのだ。
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