もう一度君に会えたなら
 翌朝、家を出ようとするとお母さんに呼び止められた。わたしは川本さんとのことを言われるのかと身構えたが、聞こえてきたのは意外な言葉だった。

「今日からわたしが送り迎えするわ。学校が終わったら連絡しなさい」
「送り迎えってそんな必要ないでしょう」

 川本さんとわたしを頑なに会わせようとしないとしているのだろうか。そう考えたとき、もう一人の川本さんの存在を思い出した。昨日のできごとをお父さんから聞いていたとしたら警戒してもおかしくはない。

「昨日の人がわたしに危害を加えるとでも考えているの? 大げさな。あの人だって何かをするわけじゃないでしょう。何かしたら警察沙汰になる。そこまでバカではないはずよ。だから、送り迎えなんて必要ないよ」
「でも、何かあってからでは遅いのよ。榮子ちゃんたちと遊びに行くならできるだけ融通は利かせるから、今は我慢してほしいの」

 お母さんはそう言い放った。
 こうしたときのお母さんは譲らないのは知っていた。
 それにここでごねて川本さんのことを再び思い出したら、話がややこしくなる。川本さんがあの人の息子だと知られていないのは不幸中の幸いだ。
< 112 / 177 >

この作品をシェア

pagetop