もう一度君に会えたなら
※※

 わたしは芽吹いたつぼみを見つけて、少し離れた場所にいる義高様に声をかけた。
 義高様は目を細めるとわたしのところまで歩み寄ってきた。

「この花、いつくらいに咲くと思いますか?」
「きっと近いうちに咲くんじゃないかな」

 彼は花をじっと見た後に、そう言葉を綴った。

「どんな花が咲くんだろう。楽しみ」
「姫は本当に花が好きなんですね」

 わたしは首を縦に振った。
 あまり外の世界に出られないわたしにとって、庭が唯一のあそび場でそこで移ろいゆく花はもっとも季節を感じられるものだったためだ。

 そのとき、小太郎様が慌てた形相で義高様のところに駆け寄ってきた。そして、彼は義高様に耳打ちをした。義高様は顔をゆがめていた。

「少し待っていてくれる?」

 わたしは頷き、二人のやり取りを植物の影から見守っていた。

「そうか。父上が」

 義高様は顔を歪ませた。その義高様の表情があまりに儚げで、消えてしまうのではないかと思った。わたしは思わず義高様のところに行くと、彼の腕を掴んでいた。

「義高様、どうかしたの?」

 彼は何かを言いかけたが、すぐに首を横に振った。

「なんでもないよ」

「しかし、このままでは」

 小太郎様が義高様を制した。

「そうしたことは分かっていたことだよ。ここに来た時から。それにもう手遅れだと思う」

 義高様の噛みしめるような言葉に、小太郎様は黙り込んでしまった。
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