もう一度君に会えたなら
「ごめん。でも、俺にもどうしたらいいのか分からない。俺も君もまだ高校生で一人で生活はできない。今の俺では君を幸せにはできない。もっと早く生まれていたらよかったのに。何で俺たちはこうなんだろうな」

 その表情が死を覚悟しているといった義高様の表情と重なった。
 そして、わたしにある核心を与えた。

「川本さんも記憶が戻ったの? ずっと昔の記憶」

 彼の目が涙であふれた。そっと唇を噛んだ。

「やっぱり君もそうだったんだな。君に会うために海に行ったときにおぼろげながら感じていた。俺はずっとこの景色を見たかった。君に会いたかったんだと分かった。この前、屋敷を出た義高が殺される夢を見て、確信したよ。でも、どうしたらいいかわからなかった。ただ、今も昔も俺は君にとっては足手まといでしかないんだと気づかされた」

「そんなことない。あなたは過去も今もわたしにこの気持ちを与えてくれた。人を好きになる気持ちを。あなただけがわたしの気持ちを動かすことができた。昔も確かにつらかった。大好きな人を親に殺されて。その後も周りはずっと言っていた。子供のころの恋心なんていずれ消えると。でも、わたしは一度もあなたを忘れたことなんてなかった」

 わたしは溢れてくる涙を手の甲で拭った。

「あなたと一緒にいた時間は何よりも幸せだった。今も同じなの。だから、どこにも行かないで。ずっとそばにいて」

 もう親に奪われたくない。わたしの気持ちを。
 川本さんの親がどうであっても、わたしたちには関係ない話なのだ。

「でも、そんなことできないよ。だって君のお母さんは」
「二人で遠くに行こう。誰もいない場所に」

 わたしは彼から否定の言葉が聞こえてくるのが嫌で、そう言葉を紡いだ。
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