もう一度君に会えたなら
 彼は目を見張った。

「でも、二人で生活なんてできるわけがない。俺たちはまだ高校生で」
「もう離れ離れになりたくない」

 わたしは彼に抱き付いていた。
 彼が慌てるのは分かったが、わたしを引き離すようなことはしなかった。
 もう周りがみていようとも気にならなかった。

「君に泣かれると、どうしていいのか分からなくなるよ」
「だって、もう嫌なんだもの。あんな辛い思いをするのは。お母さんはわたしと川本さんを絶対に別れさせようとする。今だってそうなんだもの。家にも帰らない」
「君はあの時、俺より十年以上長く生きたんだもんな。一緒にいたのは一年くらいだったのに」
「年数なんて関係ない」

 彼は泣きじゃくるわたしの頭をそっと撫でた。

「君の言うように、このままどこか遠くに行ければ幸せなのに」

 彼が困っているだろうことは声からたやすく想像がついた。だが、いろんな気持ちが沸き上がり、わたしは自分の感情を抑えられなかった。

「ごめんね。でも、わたしは」
「どこか行きたい場所はある?」

 わたしは驚き、川本さんを見た。涙で霞んで彼の顔がよく見えなかったが、笑っているように見えた。

「川本さんが一緒ならどこでもいい」
「それだと選択肢がありすぎて困るな」

 今、行きたい場所。そう思いを巡らせたとき、その場所が即座に思いついた。
 一度も行ったことはない。観光案内でしか知らない町。
 だが、わたしたちにとっては特別な場所だ。

「わたしと川本さんが昔一緒に過ごした場所」
「鎌倉か」

 彼はわたしの背中にそっと手をまわし、子供をあやすように背中を叩いた。

「行こうか。二年ほど前倒しになるけど」
「本当に?」

 彼は頷いた。

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