もう一度君に会えたなら
 彼が何を言わんとしているのか、わたしにはさっぱり見当がつかなかった。だが、近い将来聞けるなら、それまで待っていてもいい気がした。彼のいる十年なんてきっとあっという間だからだ。

「楽しみに待っている」

 わたしたちは近くをふらりと歩き回り、六時前に待ち合わせをしているというホテルに向かった。
 ホテルの前にはスーツ姿のお母さんがわたしたちを待ち構えていた。

 わたしは勝手に家を抜け出してきたうしろめたさから、お母さんの近くに来ると黙り込んだ。

「お帰りなさい」

 わたしがお母さんを見ると、彼女はにこりと微笑んだ。
 わたしは頷いた。

 お母さんの視線が川本さんに移った。

「もう決めたのね」

 川本さんは首を縦に振った。

「じゃ、入りましょうか」

 母親に促され、わたしたちはホテルの中に入ることにした。わたしとお母さんで一部屋、川本さんで一部屋を借りたようだ。

 ホテルの部屋に入ったわたしはお母さんに問いかけた。
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