もう一度君に会えたなら
 小太郎様は目に涙を浮かべ、わたしが体を起こすのを手伝ってくれた。
 そして、廊下まで付き添ってくれた。
 わたしも歳を取り、義高様はいなくなった。だが、あの二人が出会ったときに咲いていた桜の花は今年も淡い花を咲かせていた。

 懐かしい気持ちもある。だが、いいようのないわびしさが心を襲う。
 わたしはあと何回、この桜を見るのだろう。
 義高様のいない、この場所で。

「姫様は本当に義高様のことが好きなんですね」

 わたしは頷いた。

「義高様はわたしの夫ですから。亡くなっても変わりません。皆は幼いときのことなのにと驚いているけれど、この気持ちが小さくなることは一度もありませんでした。わたしはずっと義高様のことを慕い続けるでしょう。この命が果てるまで。いえ、きっとこの身が朽ちても、この思いは変わりません。もし、また会えたら、今度こそそのそばから離れないようにしたい」

「きっと義高様もそうおっしゃいますよ」
「ありがとう」

 義高様はこの城を去るとき、何を言おうとしたのだろう。
 その続きは聞けないままだった。
 あのときはそれでよかった。
 また会えると信じることで、気持ちを保とうと思ったのだ。


 もう一度会えたら……。


 わたしだったら何を彼に伝えるだろう。
 その問いかけの答えはすぐに見つかる。





 もし、もう一度会えたら、

 今度こそ、ずっとあなたと一緒にいたい、と。
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