もう一度君に会えたなら
 お父様がなぜ、小太郎様を処罰しなかったかは分からない。弓の達人らしいその腕を買ったのか、義高様を失い精神的に落ち込んでいたわたしに必要以上に刺激を与えるのを避けたかったのかもしれない。ただ、小太郎様はわたしが庇ったため、自分がこうして生き延びたと考えているようだ。

 小太郎様とともに入ってきた花の香りが鼻先に絡んだ。わたしの視界がじんわりと熱くなる。

「庭に出たいわ」
「お体のほうは?」
「大丈夫」

 わたしはもともと体の強いほうではなかった。義高様が亡くなってから、精神的に参ってしまったのか、寝て過ごすことが多くなってしまった。体がきつさを感じていたのもある。だが、もう一つだけ理由があった。

「今日は気分がいいの。義高様の夢を見られたから」

 わたしは目を細めた。
 眠っているとごくまれに義高様の夢を見ることがある。
 義高様の姿はあのときのままであることもあるし、今の小太郎様のように大人になった姿を見せてくれることもある。

 この世界に取り残されたわたしが唯一義高様に会える方法なのだ。
< 166 / 177 >

この作品をシェア

pagetop