もう一度君に会えたなら

 あの鎌倉から戻ってきた後、沙希さんにも会う機会があった。
 そのとき、彼女に大学について話を振ってみたのだ。

 なんとなく彼女は義純さんと同じ道を志したのではないかと思ったためだ。
 だが、彼女から帰ってきたのは、意外な答えだった。

「わたし、医者になりたいの。そうはいっても国立しかダメだし、いばらの道だけどね」
「お医者さん?」

 彼女のお母さんは病気で苦しんでいた。そうした姿を傍で見ていたためだろうか。
 彼女はわたしの心を見透かしたかのように、にこりと微笑んだ。

「お母さんのことは無関係ではないけど、物心ついたときから、病で伏せている人を見るとすごくつらい気持ちになるの。もし、病気が治れば、その人は笑顔でいられるかもしれない。今は各々がある程度人生を自由に選択できるのだから。その手助けをしたいの」

 そう言った沙希さんの目がわずかに潤んでいた。

 義純さんが弁護士を志したように、彼女には彼女の思うことがあったのだろう。それはわたしも同じだった。

 わたしはあれから、お母さんに仕事についていろいろ聞くようになった。
 大学生活のこと、試験勉強のこと。受かった後のこと。
 もちろん、守秘義務もあるし、言ってはいけないことは決してお母さんはわたしには漏らさない。
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