もう一度君に会えたなら
 わたしのお母さんの人生を総括したら、常に勉強し続けた人生と言っても過言ではないだろう。
 彼女の人生の様相が変わったのは、体の弱い娘が生まれたこと。
 彼女は仕事を極力セーブして、家にいるようになった。

 家にいるときも勉強をしている姿は何度も目にしていた。だから、お母さんはもっと仕事をしたいのだろうと思っていた。

「飲み物、お代わり持ってくるよ。何がいい?」
「お茶」

 沙希さんはそう答える。

「わたしはね」

 そのとき、わたしの携帯にメールが届いた。

「唯香はいらないか」

 榮子はからかうようにわたしに告げた。
 わたしは苦笑いを浮かべて、メールを確認した。
 差出人は義純さんだ。

 ちょうどバイトが終わったところらしい。

「そうみたい。わたしは先に帰るね」

 わたしは二人にからかわれながら、榮子の家を後にした。


 榮子の家を出ると、うだるような日差しがわたしを照り付けた。
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