もう一度君に会えたなら
 同じ道を志したことが嬉しかったのかと思ったが、どうやらそうでないらしい。わたしが自分でなりたいと言ったことがなにより嬉しかったらしいと後から義純さんから聞いた。そういえば、わたしはあまり親に自分の意志を伝えてこなかった気がする。義純さんに会う前は。

 ただ、問題は成績のほうだ。本格的に勉強をするようになって少し成績は伸びたが、まだ安全圏とはいいがたい。そのため、わたしは余暇の大半を勉強に費やしていた。彼に会えないことを嘆いていられなかった。お母さんは浪人してもいいというが、受かるなら現役で大学に合格したかった。

「唯香」

 名前を呼ばれ、顔を上げると、義純さんがこちらにかけてきた。
 彼は汗を拭い、苦笑いを浮かべた。

「今日も忙しかった?」
「そこそこね。でも、面白いよ」

 彼は目を細めた。

 わたしの彼氏ということは事務所中の人が知っていて、はじめはからかわれることも少なくなかったようだ。あの太田夫妻の娘と付き合っているということが意外だったらしい。それはわたしと彼が釣り合う云々ではなく、娘を溺愛している両親がよく付き合うのを認めたなということらしい。

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