もう一度君に会えたなら
「もう大丈夫だよ」
「でも」

 戸惑うわたしの肩を広佳は軽く叩いた。

「だってここで唯香を引き留めたら、あの人も困るでしょう?」

 そう広佳はいたずらっぽく微笑むと窓の外を指さした。

「見てたの?」
「たまたまね。お詫びにその人の話でも聞かせてよ」

「話なんてできるほどまだ知らないから」
「言い訳はいいから、とりあえず行きなさい。待たせておくのはダメだよ」

 わたしは広佳に促され、教室を後にした。



「あの人、めちゃくちゃかっこよくない?」

 門の近くで女子生徒がそんな会話をしているのが聞こえてきた。彼女たちの視線の先にいるのは、川本さんだ。川本さんは視線に気づいていないのか無表情のまま空を見つめていた。

「誰か待っているんじゃないの?」
「でも、誰もいないじゃない。声かけてみない?」
「先生に見つかったら大変だよ」
「大丈夫だよ。近くにいないもの」

 わたしは慌てて川本さんのところに駆け寄った。
 彼をこんなところで待たせてしまった申し訳なさと、他の女の子と話をしてほしくないという気持ちからだ。


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