もう一度君に会えたなら
※※

 わたしの目の前には青い海が広がっていた。わたしはその海を見て歓声をあげた。だが、隣に立つ義高様は難しい表情を浮かべたままだ。

「綺麗ですね」
「そうですね」

 決められた文章を淡々と読むような、感情のない言葉だった。
 義高様が海が見たいと思い込み、無理に連れてきてしまったのだろうか。わたしはそっと唇を噛んだ。

 ここにくるのも、お父様やお母様に何度もお願いをしたのだ。どうしても義高様と海が見たい、と。何度もだめだと否定された。ただ、わたしがあまりにしつこかったからか、何人か同行することで許可が下りた。両親にも結果的に迷惑をかけてしまった。

「義高様が行きたい場所があれば言ってください」
「わたしのことなど気になされずに」

 彼はそう悲しげな表情を浮かべていた。

「それは無理です」
「わたしが婚約者だからですか?」

 わたしは首を縦に振る。

「あなたがわたしを気遣う必要などどこにもないんです」

 拒否なのか、ただわたしを気遣っているのか分からなかった。ただ、彼の悲しい表情に心が持って行かれそうになった。
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