もう一度君に会えたなら
「どうしてですか? わたしのお婿様になる人なのに」
「婿といっても、あなたとわたしでは立場が違いすぎるでしょう」
「よくわかりません。そんなこと。ただ、わたしは義高様の笑った顔が見たいんです」

 そのときのわたしにはよくわからなかった。なぜ、彼がそんな悲しい表情を浮かべているのか。なぜ、自分を卑下するようなことを言うのか。ただ、否定的な言葉をつづる彼に、わたしの心の中が何かでかき混ぜたかのようにぐしゃぐしゃになった。同時に自分のわがままをおしつけていただけということを悟ってしまった。

「わがままにつきあわせて、ごめんなさい」

 わたしは再度唇を噛んだ。

「姫様は変わった人ですね。もう少しだけ時間をください。今は気持ちの整理もつかなくて、どうしたらいいかわからないんです」

 彼の言葉にわたしは何度も頷いた。
 彼の手をそっと取った。

「いつまででも待ちます。だから、義高様の願いがあれば何でも言ってください。できる限り、わたしは力になります」

 冷たい表情を浮かべていた、彼の頬がわずかに緩んだのが分かった。笑顔とは違うが、彼との距離がほんの少しだけ縮まった気がした。

 そして、わたしは自らの心臓の鼓動がいつになく早くなっているのに気付いていた。
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