もう一度君に会えたなら
 女性はため息をついて「少しだけなら」とわたしを部屋の外に連れ出してくれることになった。
 扉を開けたとき、わたしの視界に庭に咲く桜が映し出された。

「もうこんなに咲いていたのね」
「ええ。今年は少し早い実りですが」

 ふっとわたしの中に記憶が蘇った。姫と呼ばれるわたしがどういう生い立ちで生きてきたのか。

 わたしはあまり部屋から出なかった。遊び相手どころか、同じ年頃の子自体がこの家にはいなかったため、自ずと部屋で過ごすことも少なくなかったのだ。

 彼女に連れられ、桜の舞う廊下を歩いていく。そして、お父様が来客にいつも会う部屋の前に人の姿があった。

 この屋敷で働いている人の中に見覚えのない少年といっても過言ではない小柄な少年の姿。興味本位だったのか、自分と歳が近そうな少年だったからなのか、別の理由があったのかは分からない。

 わたしは女性がきくのを止めずに、その人のところに駆け寄っていた。足音が聞こえたのか、彼はわたしを見て、端正な顔立ちを歪ませた。

「初めまして」

 彼は困った表情を浮かべながらも、わたしの声に呼応するように、「初めまして」と言葉を紡いでいた。

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