もう一度君に会えたなら
 わたしの体に影が届いた。
 顔をあげると、川本さんが息を切らしてこちらに駆け寄ってきていた。

「待たせてごめん」
「わたしも来たばっかり。どこの店に入る?」
「どこでもいいよ」

 川本さんはどこに行きたいとはあまり言わない。わたしに気を使ってくれているのか、どこでもいいのかはよくわからなかった。

 わたしも川本さんと一緒ならどこでもよかったが、それを口にしてしまえば、川本さんを困らせてしまう気がした。

 適当な店を探しているとふと何人かの女の子と目があった。私服の人もいれば制服の人もいる。恐らく見られている原因は川本さんと一緒にいるからだろう。

 彼はとにかくよく目立つ。わたしも一瞬で彼に惹きつけられたように。
 だから、周りの人が彼を見てしまう気持ちも分からなくはない。
 ば榮子がこのあたりにおいしいケーキ屋さんがあると言っていたのを思い出した。

「この近くにケーキのおいしいお店があるの。そこでいい?」

 彼は頷いた。

 わたしは彼とそこから歩いて五分ほどの場所にある、オフィスビルの一階にある喫茶店に一緒に入った。
 中には学生らしき人もいれば、スーツ姿の人も見かけたが、店内から視線が集まるのを感じ、わたしは目を伏せた。
 案内された窓際の席に腰を下ろした。
 彼はメニューを受け取ると、目を通していた。
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