もう一度君に会えたなら
 夢で見た時代を確かめようとしたなんて言えば、きっと笑うだろう。
 わたしは資料集を閉じた。

「志望大学決めた? 進路希望の紙、来週までだよね」
「お母さんは法学部がいいと言っているし、それで出す予定。まあ、高校二年の今の段階はそんなに重要視するようなものでもないけどね」
「弁護士かいいね。唯香に似合いそう」

「でも、試験に受からないとなれないし、お母さんの話を聞く限り大変そうだよ」
「大丈夫だよ。きっとなれるよ」

 わたしは気のない返事をした。
 彼女の中ではわたしが弁護士志望だという思い込みが進展しているようだ。

 司法試験は少し前に試験制度が変わり、お母さんが受験していたころとは一変したようだ。
 お母さんが合格したときより受かりやすくなったらしいけれど。
 問題はそこまでわたしにやる気があるかどうかだ。

 わたしはある程度名前の知れた中高一貫の学校に通い、高校二年になったばかりだ。
 成績はクラスでいいほうといったくらいで、特別目立った生徒というわけではない。

 もっともお母さんはこの学校の出身で、模試でも優秀な成績を残し、才女として名が知られていたようだ。
 だからこそ、わたしはある意味先生たちにとっては期待外れだった。

 優秀なのはお母さんだけではない。お父さんも地元では有名な進学高校を出て、誰でも知っているような有名大学を卒業していた。そのため、当然わたしも大学に行くのは大前提として人生設計がなされていた。ただ、希望は伝えられてもこの学部に行くようにと強制されたことはない。そうした希望は子供の希望に沿うような形でもっていきたいと考えているようだった。ただ、ばりばり働くというイメージがないわたしはそこから適当な会社に就職して、結婚するんだろうと考えていた。
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