恋歌い
1
奏は今日も憂鬱だった。


悲しみをこらえながら、笑顔で人を励ます歌を歌う。

1文字1文字に感情を絞り出すようにのせて歌う。


メリメリと割れるように、心は限界を迎えていた。



「三扉 奏(さんと かなで)」、
一風変わった芸名のその歌い手は、聖母を意識した歌詞を歌い上げることで知られていた。

高く、よく伸びる声が、その言葉を紡ぐたび、下を向いて生きる人々は空を見上げずにいられないだろう。

そんな評判だった。



さらには、ロングヘアーと涙がこぼれそうな大きな目、といった西洋風の容姿の良さもあり、TV番組のオファーも数知れずあった。



「万勝さん、私、もう限界だよ」
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