恋歌い
2
歌番組の控え室で、マネージャーの万勝基紀(ばんしょうもとき)に訴えた。



「私、もう、歌いたくない」

"歌えない"ではなく、自分の意志をもって"歌いたくない"のだと言う。

ふるふると小さく頭をゆするジェスチャーとともに。

そう告げる奏を、眉間をよせて基紀は見つめた。



「じゃあドタキャンするか?」



基紀は静かな声で歌姫へと問う。


今日は生番組のゲスト出演で、持ち歌をメドレーで、との依頼だ。
何ごともなければ、きっと奏も基紀も手放しで飛びついていただろう。

奏は歌うことが好きなのだから。


基紀が眉間を伸ばし、左ななめ下に視線をおくり、奏を視界から外した時、
奏は言った。

「いやだ」


「じゃあ歌え」


「いやだ」


コントのような会話をくり返したあとに、奏は一筋の涙をこぼした。

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