奏 〜Fantasia for piano〜
合唱の終盤、盛り上がりの部分が過ぎて、しっとりと静かに終わりに向かう。
『いつか この街のどこかで巡り会えたら
頑張ったねと言ってあげたい 頑張ったよと胸を張りたい
その日を楽しみに 今はさよなら
その日を信じて 今はさよなら』
弾き終えて、鍵盤から手を下ろし、繋いでいる手もそっと離した。
私の体から奏の気配が消えて、タンッとステージを飛び下りた音と、足早に遠ざかる足音が聞こえた。
私の涙は乾くことなく流れ続けているけれど、口元には微かな笑みが戻っていた。
ずるいよ、奏。
そんな言葉を残されたら、期待してしまうじゃない。
いつか、また巡り会えるって……。
その日を楽しみに、今はさよなら。
その日を信じて、今はさよなら。