奏 〜Fantasia for piano〜
目の前の白いワイシャツの背中を見つめ、ぼんやりと考えていたら、「斉藤」と名前を呼ばれてハッと我に返った。
数学の先生が怖い顔して、教壇から私を見ている。
「は、はい」
「今の説明、聞いてたか?」
「はい……」
「三十六番の問に答えてみなさい。
聞いてたのなら、解けるはずだ」
え、えーと……。
開いていた教科書のページには、三十六番の問題はなく、どのページにあるのかさえ、すぐには分からなかった。
諦めて上の空だったことを謝ろうと思い、立ち上がる。
この先生は、罰として課題プリントを出す先生なんだよね。
あーあ、やってしまった……。
謝罪を口にしようとしたら、ふと気づいた。
奏が左手に持ったノートを、私に見えるように立てているのだ。
三十六番の問の式と答えが大きく書いてあり、それを赤丸で囲んで、その横に『言って』という言葉も添えてある。
思わず奏のノートの解答をそのまま読み上げたら、先生が意表を突かれたような顔をした。
「正解。なんだ、聞いてたのか……すまんな」