恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
窓の外から漏れる観覧車の光や建物を照らす光が男に向けて淡く注がれる。
握りこぶしをつくり、肩で風を切りながら歩く長身に細身のスーツ姿が暗がりの会議室に映えた。

怖くなってポケットに入っていた小さなLEDライトで男を照らした。
髪の毛は短髪で薄型のスクエア型メガネフレームに長めにおろした前髪がかかっている。

男は壇上に登り、わたしの目の前に立ちふさぐ。そのままじっと見下ろしていた。

「この時間帯に会議はないはずだが」

深みがある低く、よく通る声は会議室中に響きわたる。
一瞬、その声がするりと体のなかに入っていくような感じがして、どきんと胸が騒いだ。

気を取り直し、わたしも意地になって反論する。

「あの、そういってるあなたもですよね。どうしてここにきたんですか」

「任務だ」

「は?」

任務って一体なに? こんなやりとりをしている暇はない。
このままだとあいつが逃げてしまう。
すると、大会議室のドアが開いた。

「ライトを消せ。隠れろ」

どうしてこの人に指図されるのかわからないけれど、しかたなくLEDライトを消す。

しぶしぶ演台に潜り込み、その男の隣にしゃがみこむと、大会議室から入ってくるやつに目星をつける。

一番にしなくてはいけないこと。
それは、決定的な証拠をつかむことだ。

窓の外の光をたどると、男のシルエットがみえる。その男の後を追うようにもう一人、大会議室のなかへと入ってきた。
暗がりだったがだいぶ目が慣れてきた。
一緒にいるのは、スカートを履いている。

そいつは女と手をつなぎ、中へ入ってきた。

やっぱりそうだったんだ。

いてもたってもいられずわたしは立ちあがろうとする。
しかし、隣にいた男の手がわたしの左腕を掴んだ。

「待て、まだだ」

「ちょ、ちょっと! 退いて」

わたしは足元がふらつき、ガタンと演台が揺れた。
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