恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
メガネに潜む甘い秘密
金曜日の午後8時。
本社ビルオフィス棟の18階にある会議室。

残業をすませ、帰るふりをして暗く静まる会議室の隣の会議準備室にわたしはひとり侵入する。

同じ課の先輩に会議用の資料の準備をすると嘘をつき、守衛室のおじさんから鍵を借りた。
先輩、嘘ついてごめんなさい、と心の中でつぶやきつつ。

会議準備室から会議室への侵入は隣の部屋なのでセキュリティに甘いことは以前、全体会議の際、みんなに配る冊子を保管するために立ち寄っていたので知っていた。

会議室準備室から大会議室へゆっくりと足音を立てずに中へ入る。

今日はこの日のためにハイヒールではなく、ペタンコの黒のバレエシューズにしておいて正解だった。

ブラインドがすべてあがったままの大きな窓からはこうこうと虹色に光る大観覧車、オフィスビル、遠くに見えるのは港に隣接された工場がオレンジ色に染められている。

会議室には2種類あって、グループごとの少人数で会議ができる小会議室と大会議室があり、わたしのいる会議室は多くの社員が集まることができ全体会議に使用されるワンフロアの大会議室だった。

長机と椅子が壇上に向かってきれいに並べられているのを小さなLEDライト片手に足元を照らしながらわたしは壇上へ向かい、茶色の演台の中へ身を縮めた。

もうじきあいつがやってくる。

左手首にはめた時計をペンライトで照らし、時間を確認した。

大会議室の扉へ視線を集中させると、扉が開く音がして、大会議室に廊下の光が差し込んだ。
演台の間の机と椅子の間に身を寄せながら暗い部屋の中、必死に目をこらす。

あいつより背の高い別の誰かがこちらに近づいてきた。

「誰だ、そこにいるのは!」

男性の声が大会議室にこだまする。
その声に驚きおののき、しゃがんでいたのだが、思いっきり床へ尻もちをついてしまった。

床にぶつけたお尻をさすりながら、しぶしぶ演台の前に立ち上がる。

つかつかと革靴を鳴らしながら男が近づいてきた。
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