恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
退去猶予はまだあったけれど、新しい部屋を探さないと。
椅子から立ち上がり、クローゼットの前に立つ。

一人暮らしだからあまり荷物はないよな、とクローゼットの奥、スーツやコートがかかる洋服をかきわけると、津島と付き合ったときにデートで着た服が目に飛び込んでくる。
急に胸が苦しくなってクローゼットの扉を閉めた。
今更、津島のことを思い出したってしかたないのに。

これで悩み事の種がひとつ増えた。
すべての根源は『カントク』にあるな、と大上部長を思い浮かべる。

どういう神経でわたしにキスしてきたんだろう。
嫌だっていう気持ちが強いはずなのに、一瞬、反応してしまっていた。

そうやって大上部長は世の女性をだまして付き合っていたんだろう。
そんなやつのことなんか、信用できない。
胃がムカムカしつつも買ってきたお惣菜をペロリとたいらげ、シャワーを浴びてベッドに入った。

朝になり、仕事行きたくないな、と思いつつも、いつもと同じ時間に目覚め、勝手に着替えを済ましている。
置いたままの求人雑誌の横にあるメガネをかけ、髪の毛をひとくくりにまとめると気持ちを仕事モードに切り替え、出勤する。

これからどうしよう。
電車に乗り、会社前の駅で降り、同じ時間帯に出社時間であろう通勤の人たちの後ろ姿をみながら、会社のビルへと足を早める。
暗く澱んだわたしの気持ちとは裏腹に天気は朝からよくてまぶしいぐらいの太陽の光がビル群のガラス窓に反射していた。
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