恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
入り口で守衛さんが立っており、IDカードをカバンから取り出す。
白いIDカードだったものがいきなり真っ黒なIDカードに変えさせられていたことを忘れて目にしたときドキッとしてしまった。

守衛さんにちらっと黒のIDカードをみせると姿勢を正して丁寧にお辞儀をしてくれた。
いつもなら首を軽く縦に振るぐらいだったのに。

守衛室の小窓をのぞくと、中にいた横尾さんと目があった。
小窓を開け、横尾さんがわたしの気持ちも知らないでニコニコと顔を出す。

「おはよう。どうした? 朝から暗い顔で」

「……おはようございます」

挨拶だけかわして会社の中へと入る。
横尾さんは何か言いたげな顔をしていたけれど、それにいちいち反応していたらますます『カントク』にのまれそうで嫌だった。

19階について化粧室に飛び込んだ。
沈んでいる顔がさらに暗くしぼんでいる。

今日だけは頑張ろう。

そう心の中でつぶやきながら、メガネのテンプルに手をかける。
メガネを取り去ると、今度は後ろで束ねた髪の毛のゴムをとり、メガネと髪ゴムをカバンに投げ入れた。

姿勢を正し、少し大股で化粧室から『カントク』の扉を開ける。
髪の毛を揺らしながら奥の扉まで歩き、一呼吸を入れて扉をノックし、中へと入っていった。

「おはようございます」

横尾さんをのぞく昨日朝いたメンバーがすでに揃っていた。
昨日とは違う姿に皆、わたしに注目している。
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