恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
はじめてのおしごと
「引っ越しの準備って言ったって、まだ会社に来たばっかりですよ」

呆れて放ったわたしの言葉に大上部長は鼻でふん、とせせら笑った。

「家のこと心配してたら仕事にならんだろう。引っ越し業者を手配しておいた。その前にまずは新居の確認をしたらどうだ?」

「ひどい。勝手に決めるなんて」

わたしの言葉を無視して大上部長は両脇に立つ黒服を着た戸塚さんと鈴井さんに資料を渡し、打ち合わせをしている。
急に勝手に決められていらついているところで、

「こういう時は早いことがいいっていうことだってあるわ、萌香さん」

そういって、あおいさんがなだめるようにニコッと笑いかけた。
あおいさんの屈託のない笑顔の雰囲気に流される。

「わ、わかりましたよ。物件がみつかる少しの間ですからね!」

「素直が一番だ、椎名萌香。本当だったら俺が一緒にホテルにいってもいいんだがな。一緒に立ち会うとおまえの体が持たないかもな。あおい、頼む」

大上部長はわたしの方へは顔を向けず、クスクスと嫌味な笑いを付け加えた。

「大上部長の命令ですわ。さあ、行きましょう」

と、あおいさんに手を引っ張られて、特別班のいる部屋から薄暗い部屋を抜けて入口の茶色い重厚な扉を抜けた。
エレベーターのボタンを押し、来るまで待っていた。

「萌香さんはウチのホテル、泊まったことはあるかしら?」

「いえ、一度も」

格式が高いのももちろんだが、さすがに値段も値段で一度は泊まってみたくて、一度だけ津島におねだりしたことがあったけれど却下されたことを思い出した。

「そうでしたの? 狭いお部屋ですけど、快適に過ごしていただけるか心配だわ」

あおいさんはわたしを心配そうに眉を八の字にさせながら、一緒にエレベーターに乗り込み、地下駐車場から地上へ接続するエレベーターへ乗り込んだ。
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