復讐の女神

誤算

「今日は、お疲れ様でした。どうでした?」

終電間近の人でごった返した電車の中で
石井はゆりに声をかけた。

「はい、お疲れ様です。楽しかったですよ」

ゆりも彼の方を見上げ、笑顔で応えた。
だけどその後すぐゆりは彼から目を逸らすと
言いづらそうに彼に言った。

「あの・・・石井さん」

「え?」

「石井さん、次の駅で降りて良いですよ」

「え?どういう意味?」

石井は怪訝そうな顔でゆりを見ると
ゆりは意を決したように彼に言った。

「このまま私の家まで来たら石井さん帰れなくなってしまいますよ」

ゆりは心配になりながら彼にそう言うと
石井は素っ気ない態度で「大丈夫です。案はありますから」とだけ応えた。

ゆりの最寄り駅に到着し二人は降りるとそのまま、ゆりの家まで歩き始めた。

暗い夜道の中、足を進めていると突然
隣にいた石井の手がゆりの手を握った。

「え?」

ゆりはびっくりして石井の方を向いた。
けど、石井は気にすることもなくそのまま歩き続けた。

「い、石井さん。離してください」

「なんで?今は誰も見ていませんよ」

「でも困ります。」

ゆりがうつむきながらそう言うと更に石井は
握る手の指を絡めた。

ゆりはさすがに緊張して心臓の鼓動が早鐘を打ち始めた。
どうしていいのか分からずゆりは一種のパニック状態に陥った。
刻一刻とゆりの家に近づいていく。
このまま無事に家に着き、石井も自分の家に帰ってくれるのか心配になった。

そして手を握られたまま
とうとう、ゆりの住むマンションの前まで着いてしまった。

ゆりは、そっと石井の手から離れると
「ここなのでもう大丈夫です。今日はありがとうございました」と言って
中に入ろうとした。その時だった。
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