復讐の女神

理由

ゆりは石井の腕に抱きかかえられ、
意識が朦朧としながら訳も分からず歩いていた。

「大丈夫ですよ、もう少しで着きますからね」

石井に励まされてもゆりの耳には全く入ってこなかった。

その頃、グランドホテルのレストランで
片山課長と森村花澄は向かい合いながら
夕食を食べていた。

「ここの料理本当に美味しいですね」

「・・・」

「片山課長?」

「え?」

「大丈夫ですか?」

「え?なにが?」

「あのさっきから上の空みたいですが・・・」

「あ、すいません。で、なんだっけ?」

「大したことないです。お忙しいからきっと
疲れてるのですね。」

森村は片山課長を気遣うように言うと
ワインを一口飲んだ。

「今日はもうお帰りになった方が宜しいのでは?」

せっかくの森村とのディナーに申し訳さを感じたが
片山課長は気が進まないため「そうだな」と応えた。

「今日は、私の家に来ませんか?」

「は?」

突然の誘いに片山課長は戸惑いの表情を浮かべた。

「あの、片山課長と会った日に一人で家に帰るのって
結構寂しいのですよ?だから、今日はもうちょっと
二人っきりで一緒にいたいなぁって思いまして」

片山課長が返答に困って黙っていると
森村は「あ!あのお仕事で疲れてると思うので無理しないでください!
私のただの我儘ですので・・・」と慌てて付け加えた。

「お気遣いありがとうございます。そうですね、
今日は森村さんの家で飲み直しましょうか。」と
片山課長は自分想いの森村のことを申し訳なく思い、
社交辞令でそう言ってしまった。

「本当ですか!?」
森村は嬉しそうに笑った。
< 51 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop