君の声が聞こえる
プロローグ
『あかさたな、はまやらわ』

 ああ、また声がする。
 名前も知らない人の声が、僕の頭の中にゆっくりと落ちていく。

『あえいうえおあお、かけきくけこかこ』

 静かなその声は酷く聞き慣れたものだ、ほとんど毎日僕の頭の中に落ちてくるのだから。静かで優しくて落ち着いていて、日曜日の午後のようにゆったりとしている。

『させしすせそさそ、たてちつてとたと』

 「彼女」は時々こうやって、静かなその声で何かを呟く。僕はその声が聞こえ出したら目をつぶり、彼女の声に耳を傾ける。
 物心ついたときからほとんど毎日、僕は彼女の声を聞く。彼女を思う。彼女について考える。彼女が幸せかを願う。
 けれど。

『なねにぬねのなの、はへひふへほはほ』

 僕は「彼女」を知らない。
 名前も、年齢も、どんな外見をしていて、どんなものを見て、今はどこで過ごしているのかも。


 だけど僕は、いつか君に出会うだろう。
 そして僕達はきっと恋に落ちる。


だって僕は、
運命の人の心の声が聞こえるのだから。


 だから君は僕の運命の人なんだ。
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