君の声が聞こえる
第一章
歓声が響く。
僕と君の何もないスペースを埋めていく。

誰も君には追い付けない。
誰も君には敵わない。
誰も君を止めることなんてできない。

割れんばかりの歓声が落ちる。
僕と君を飲み込む。
(ねぇ彩花さん、聞こえる?)
君が少しずつ僕に近付いてくる。
僕と君との距離が近くなる。

『ねぇ駆琉くん、見てる?』

君の声がした。
見てるよ、と僕は心の中で呟く。

ううん、君しか見えないよ。
僕には君の声しか聞こえない。
痛くなるほどの歓声の中、僕には君の声しか聞こえない。埋めたはずのスペースは、また真っ白の空白に変わった。
けれどそれでいい、君の声がする。

君の声が聞こえる。
< 2 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop